会えない同期を、広告でつなぐ。
コロナ禍で入社式が中止となり、同期と一度も会えないまま社会人になる新入社員たち。一人ひとりの言葉を集め、一枚の新聞広告にすることで、「同期」というつながりをデザインしました。
会えないまま、社会人になる。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業で入社式が中止やオンライン開催となりました。
本来なら同じ場所に集まり、初めて顔を合わせ、「今日から同期だね」と言葉を交わすはずだった新入社員たち。しかし、その当たり前は突然失われてしまいます。
私たちが考えたのは、オンラインで入社式を再現することではありませんでした。
会えないままでも、「同期」という実感をどう生み出せるだろう。
この問いが、プロジェクトの出発点になりました。
一人ひとりの言葉で、一枚の広告をつくる。
企業から新入社員へメッセージを届けるだけでは、一方通行のコミュニケーションになってしまいます。
そこで、新入社員一人ひとりから同期へのメッセージを募集しました。
集まった無数の言葉は、そのまま掲載するのではなく、一枚のモザイクアートへと昇華。離れた場所で書かれた一人ひとりの想いが集まり、「会えなくても、一生同期だ。」というメッセージとともに、一つのビジュアルを形づくりました。
この広告を構成しているのは、デザインではありません。
新入社員一人ひとりの言葉です。
だからこそ、この新聞広告は企業が発信する広告であると同時に、新入社員全員が一緒につくった、一生に一度の記念でもありました。
新聞広告を、「集まる場所」に変える。
新聞広告は、本来、企業から社会へメッセージを届けるためのメディアです。
しかし、このプロジェクトでは、その役割を少しだけ変えてみました。
私たちがつくりたかったのは、「読む広告」ではありません。
同期が集まり、お互いの存在を感じられる場所。
期待と不安が入り混じる入社初日、一人ではないことを感じられる場所。
新聞広告というメディアを、情報を伝えるための紙面ではなく、人と人とのつながりを生み出すコミュニケーションの場としてデザインしました。
クリエイティブは、人と人をつなぐことができる。
この取り組みは、第40回新聞広告賞 大賞を受賞しました。
評価いただいたのは、一枚の広告の美しさだけではありません。
新聞広告を「伝えるメディア」から「人が集まるメディア」へと発想を広げ、新たな可能性を示したこと。そして、会えなかった新入社員たちに、「同期」という実感を届けたことでした。
私たちは、クリエイティブとは情報を伝える技術だけではないと考えています。
人と人との関係をデザインすること。
このプロジェクトは、その可能性を改めて教えてくれた仕事でした。
入社前の半年間を、プロジェクトにする。
内定者のモチベーションを高め、入社への期待を育むために、入社前の半年間をCM制作のプロジェクトに。企画、プレゼン、投票、撮影まで、内定者とプロのクリエイターが共に取り組みました。
入社までの半年間は、「待ち時間」なのか。
企業にとって、内定から入社までの半年間は、意外と長い時間です。
期待が高まる一方で、不安も生まれる。ほかの会社への気持ちが揺らぐこともある。同期との接点が少なければ、「本当にこの会社でいいのだろうか」という迷いも生まれやすくなります。
だから私たちは、この半年間を「待つ時間」ではなく、一つのプロジェクトに変えられないかと考えました。
主役は、内定者自身。
プロジェクトのテーマは、「全国の新社会人を応援するCMをつくろう」。
参加を希望した内定者がチームを組み、企画を考え、プレゼンテーションを行い、プロのクリエイターからフィードバックを受けながらブラッシュアップを重ねました。
最終的に選ばれた企画は、本物のWeb CMとして制作・公開。選ばれなかったチームも、投票や応援を通じてプロジェクトに関わり続けました。
完成したのは一本のCMだけではありません。
「自分たちが会社のブランドづくりに参加した」という実感でした。
クリエイティブは、モチベーションを育てられる。
このプロジェクトで大切にしたのは、映像のクオリティだけではありません。
考えること。
仲間と議論すること。
プレゼンすること。
フィードバックを受けること。
そして、誰かのアイデアを応援すること。
そのすべてが、入社前の時間を前向きな体験へと変えていきます。
企業から一方的にブランドを伝えるのではなく、内定者自身がブランドを考え、つくり、発信する。
そのプロセスが、会社への理解や愛着、そして「早く入社したい」という気持ちを育んでいきました。
プロジェクトが、入社のスタートラインになる。
完成したWeb CMは、全国の新社会人へ向けた応援メッセージとして公開されました。
しかし、私たちにとって本当の成果は、その一本の映像だけではありません。
入社前の半年間を、受け身で過ごす時間ではなく、仲間と挑戦し、成長し、会社とつながる時間へ変えられたこと。
クリエイティブは広告をつくるためだけのものではなく、人の気持ちや行動をデザインすることもできる。
このプロジェクトは、そんな可能性を実感した仕事でした。